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「三種の神器」の心29

[承前]

 江戸時代初期の著名な学者・熊澤蕃山は、
「「三種の神器」は神代の経典である」
 ――と述べています。

 江戸時代の末になると、水戸学の泰斗である藤田東湖は、やはり『記紀』の記述をもとに、天皇の役割を、
「蒼生安寧」
 ――としました。
 蒼生とは人民とか百姓とかいった意味です。
 人民も百姓も『記紀』に出てくる言葉で、今でいえば国民ですが、『記紀』ではこれを「おおみたから」つまり「大御宝」と称し、宝物であると認識していました。

 つまり、

「天皇とは「三種の神器」を先祖から受け継ぐことによって、宝物である国民の安寧が成就するように正直と慈悲と智慧をもってまつりごと(祭祀や政治)を行うことを義務とする存在」
(別の言葉でいえば、力ではなく「君主の徳」によって国と国民を統べる存在)

 ――なのです。

 権力者が自分の支配下の人々を「至高の宝」としてその安寧を願いつづけるというこの思想は、世界の古代史において珍しいのではないでしょうか。
 日本の大和朝廷独自の平和思想です。
 伊藤博文の『憲法義解』によれば「うしはく」ではなく「しらす」の思想による統治です。

 近世以降は祭政がほぼ分離しましたので、天皇皇后両陛下の主要な役割は政治から離れて「祈り」となりました。
 ふだんほとんど報道されませんが、今上天皇皇后も連日祈っておられ、また全国の神社や陵墓をめぐって祈りを捧げつづけておられます。

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